森林療法のエビデンス「嗅覚と聴覚の疑似森林浴」

今回は、精油の香りと音を用いた擬似的な森林浴環境が長時間労働者に与える影響を検討した報告を紹介します。

掲載誌「AROMA RESEARCH」は、フレグランスジャーナル社が発行するアロマの機能性(生理・心理的作用等)と効用を中心とした学際的情報誌です。

☆注意事項☆

森林療法のエビデンス各ページでの研究紹介は、タイトルも含めて省略する過程で要約者の主観が入ります。引用する場合は必ず原著をお読みください。

 

擬似的な森林浴環境における疲労・ストレス軽減効果の検討

〔対象〕週 50 時間以上の長時間労働を行っている成人10名(男性5名:平均年齢 39.2±8.7 歳,女性5名:平均年齢36.8±6.4 歳)。

〔方法〕約4 m3の防音室内に精油を芳香拡散器で拡散させ、環境音(森の風景と音の睡眠アプリHD“SleepingMind Relaxation2:Forest for iPad”)をスピーカーから流し、擬似的な森林浴環境を作った。

実験前後に、①生理的指標として心拍変動から推定される自律神経のバランスと脳波を測定し、②心理的指標として気分プロフィール検査(POMS 短 縮 版 )、総合的気分状態(TMD:POMS の活気,友好以外の得点から活気得点を差し引いたもの)、疲労・覚醒主観評価指標(RAS)による評価を行った。

〔結果〕

①生理的指標

実験後、交感神経活動を表すLF/HF 値はスギ葉精油 7 名,クロモジ精油 8 名低下し、自律神経全体の強さを表すccvTP値はスギ葉精油 4 名,クロモジ精油 5 名で上昇した。脳波については、両精油ともにγ2 の 有意な増加が認められた。

②心理的指標

両精油ともにPOMS の「疲労」と総合的気分状態(TMD)が有意に低下し、疲労・覚醒主観評価指標 (RAS) の「リラックス」が有意に増加した。また、「眠気」の増加もみられた。

〔考察〕心理的指標の結果から、疑似的な森林浴環境はリラックスを感じさせ、主観的な疲労とストレスの軽減が考えられた。被験者全員から「うとうとした」「眠ってしまった」と申告があり、 RAS の「眠気」も増加していたことから,眠気を催す効果も示唆される。

生理的指標では、交感神経活動を表すLF/HF 値は半数以上で低下したが、自律神経全体の強さを表すccvTP値の上昇は半数に満たなかった。これは、被験者全員が実験中に眠ってしまったため、客観的疲労度を表すccvTP 値は改善しなかったと推察される。

脳波については,γ2 の増加が顕著であった。一般的に覚醒中のγ波は作業記憶や長期記憶,注意,知覚等に関連しており、睡眠中のγ波の活性は大脳皮質の神経回路整備につながる。擬似的な森林浴環境において睡眠が促された上でγ2 波が増加したことは,脳の疲労回復への関連が示唆される。

実際の森林浴で働かせる五感(嗅覚, 聴覚,視覚,触覚,味覚)のうち嗅覚と聴覚を対象として作成した擬似的な森林浴環境は,生理的および心理的にも,長時間労働者の疲労・ストレスを軽減することが示唆された。

将来的には在宅療養患者や入院患者などをはじめとする,森林浴に出かけられない状況におかれている人たちのストレス・疲労対策などにも活用したいと考える。

(AROMA RESEARCH;17(1) 68-73,2016)

 

【補足】この研究は、昭和薬科大学の臨床化学分析教育研究室からの報告です。環境設定から生理的、心理的指標の評価まで、丁寧な研究プログラムは大学の研究室ならではですね。

森の中で、音を聞いて香りを嗅いだ時、脳波や自律神経のバランスにこのような変化が起きていることを想像するのも楽しいものです。

Follow me!

プロフィール

飯田 みゆき
飯田 みゆき森と魂のセラピスト
薬剤師・森林インストラクター・メディカルハーブプラクティショナー・ドルフィンスターテンプル認定ヒーラー・日本森林療法協会元理事