森林療法のエビデンス「聴覚刺激」

今回は聴覚刺激が身体に及ぼす影響を検討した研究を紹介します。

森林療法は五感全体を通して調和を感じるものですが、森林内での小川のせせらぎや、小鳥のさえずりなどの音は、心地よいと感じる代表的な要素です。

室内での聴覚刺激による脳活動への影響

〔対象〕男子大学生16名

〔方法〕目を閉じた状態で、①小川のせせらぎ、②カッコウの鳴き声、③ウグイスの鳴き声④田園のカエルの鳴き声⑤「ピー」というピュアトーンのCDを2分間聞かせ、近赤外線分光分析法による前頭前野の脳活動の測定で評価した。

〔結果〕脳活動は、ウグイスのさえずり>小川のせせらぎ>カッコウの鳴き声>田園のカエルの鳴き声の順で鎮静化していた。不快であると評価されたピュアトーンでの脳活動は、増加も減少も大きな変化を生じていた。

〔考察〕ストレス反応は一般に闘争・逃走反応と言われるが、脳活動も活動が昂進するケースと脳活動を低下させ災難が過ぎ去るのをじっと待つ消極的なケースに分かれるように思われる。

(宮崎良文、菊池吉晃 日本生理人類学会大会要旨集,33:14,1994)

 

【補足1】近赤外線分光法について

近赤外線とは、赤外線のうち赤色に近いおよそ0.7 – 2.5 μmの波長を持ち、赤外線カメラや赤外線通信、家電用のリモコンなどに応用されている光です。近赤外線は皮膚や頭蓋骨によって遮られず、ヘモグロビンの酸素との結合度合いを測定できるため、血流量、酸素消費などから脳活動の様子を推測することができます。

【補足2】前頭前野について

脳活動の調節に重要な役割を果たし、記憶や学習と深く関連している脳の一部で、不快なストレス刺激や不安感により、活性化されます。森林の音が前頭前野の脳活動を鎮静化させるということは、ストレス刺激が少なくなったと考えられます。しかし、うつ状態でも前頭前野の脳血流量が低下しますので、適度な低下が良いようです。

 

音楽と森の音による効果の性差、年代差

〔対象〕20代男子

〔方法〕目を閉じて音楽を聴く過程での前頭部脳活動を測定

〔結果〕音楽のジャンルを問わず脳活動は鎮静的な状態になっていることが示唆された。

特に、楽曲を快適と感じた被験者は鎮静化の度合いが大きく、快適感との関連が確認された。

年代の異性被験者や壮年期の被験者では、気分状態の主観的な変化や曲のジャンルにより脳活動の変化に差があった。

一方、森林にまつわる音を聴取した場合には、音楽聴取の場合と比較して脳活動の鎮静の程度が大きくなく、性差、年代差、個人差が少なかった。

(森本兼曩ほか監修『森林医学』朝倉書店149-155,2006)

 

【補足3】音楽が人の生理的、心理的、社会的な痛みを和らげることは経験的に知られていました。第二次世界大戦中に米国の野戦病院で音楽を流したところ兵士の治癒が早まり、その後音楽による治療効果が立証されていきました。日本では2001年に日本音楽療法学会が発足し、音楽療法士の認定を行っています。

森の音が音楽と比べて個人差が少ないという結果は、森林が文化を持つ前からの人類の故郷であるからかもしれません。

予定のない週末には、CDで良いので目を閉じて静かに森林の音を聞いてみるのも良さそうです。

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プロフィール

飯田 みゆき
飯田 みゆき森と魂のセラピスト
薬剤師・森林インストラクター・メディカルハーブプラクティショナー・ドルフィンスターテンプル認定ヒーラー・日本森林療法協会元理事