自律訓練法のエビデンス
自律訓練法とは
自律訓練法は、楽な姿勢をとって目を閉じ、「気持ちが落ちついている」「両腕が重い」などの言葉(『公式』と呼びます)をそれぞれの身体感覚に注意を向けながら心の中で繰り返し唱えるものです。
1932年に、ドイツの精神科医シュルツ博士が、催眠状態を意図的に作り出して緊張を低減することで心身の調整、健康状態を向上させる心理生理的方法として確立しました。
身体に注意を向ける方法でありながら心理療法として実践されてきた歴史があり、不安、抑うつ、怒りなどのネガテイブな感情を低下させ、自己受容を促す効果が知られています。
厚生労働省のHPでも紹介されています。
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今日は、以下の文献からそのエビデンスを紹介します。
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自律神経機能への影響
自律神経は、緊張するときに働く交感神経と、リラックスするときに働く副交感神経がバランスを保って働く神経です。
いつもは私たちの意識と関係なく、このカラダが安定して存在するために働いています。
身の危険が迫ったとき、私たちは戦うのか逃げるのか、何かしら行動しなければいけません。
そんなときは交感神経が働いて、緊張状態を作り出します。瞳孔を開いて危険状況を判断し、浅く速い呼吸で酸素をがっつり取り込み、心臓はバクバクと筋肉に血液を送り出し、血圧を上げて準備を整えます。
そして危険が去れば、副交感神経が働いてリラックス状態を作り出します。呼吸はゆっくり深くなり、血液は手足の指先や内臓の隅々まで送り届けられて新陳代謝を高めます。しっかり栄養を消化するのもリラックス状態のときです。
ところが、緊張状態が続いたり、リラックスする間もなく何度も起きてしまうと、交感神経ばかり働いて副交感神経とのバランスが取れなくなってしまいます。
いわゆる「自律神経が乱れている」状態です。
自律神経の乱れは、吐き気、腹痛、便秘&下痢などの消化器症状や、動悸、肩こり、手足の冷えなどの循環器症状、頭痛、めまい、多汗、手足のしびれ、全身のだるさ、不眠などの身体症状だけでなく、不安、緊張などの精神症状まで、さまざまな症状を引き起こします。
自律訓練法は、自律神経のバランスを整えることが知られています。
自律訓練法は血圧、心拍数、呼吸数の低下、末梢皮膚温の上昇、中枢温の低下をもたらす。
自律訓練法により交感神経活動が抑制されると末梢血管は拡張し、血流量の増大、皮膚温の上昇が生じる。
この時、末梢血管拡張による放熱反応と基礎代謝の低下によって、中枢温はやや低下する。
「両腕が温かい」という公式は、このような変化によって生じる温度覚に注意を向ける公式といえる。
(岡 孝和,小山 央:自律訓練法の心理生理的効果と心身症に対する奏功機序.心身医学 vol.52,no.1,25-31,2012)
中枢神経系への影響
①脳波への影響
主に知られている脳波には、α波、β波、θ派、δ派があります。
β波:周波数 14~30Hz(ヘルツ)、 覚醒時、心配事、イライラなどの状態
α波:周波数 8~13Hz、没頭、瞑想時など覚醒状態ではあるが意識があまりない状態
θ波:周波数 4~8Hz、 浅い睡眠時に現れる
δ波:周波数 0.5~4Hz、 深い睡眠時(REMではない)に現れる
自律訓練法は脳波は徐派化する。
覚醒派であるβ波は減少し、α波もしくはθ派が増加する。
(岡 孝和,小山 央:自律訓練法の心理生理的効果と心身症に対する奏功機序.心身医学 vol.52,no.1,25-31,2012)
徐派化というのは、β波→α波→θ派→δ派というように周波数が下がっていくことです。
自律訓練法によって、脳は覚醒状態からリラックス状態に変化していることがわかります。
②fMRI(機能的磁気共鳴画像)への影響
自律訓練法中の脳活動をfMRIを用いて検討した研究では、自律訓練法熟練者、未経験者ともに自律訓練法中、左前頭前皮質、頭頂皮質、島皮質の活性化がみられ、特に左島皮質の活性化の程度は自律訓練法練習の年数と正の相関を示した。
島皮質は痛み、かゆみ、動悸などの内受容と情動体験、恒常性の維持に重要な部位である。
この結果は、自律訓練法を何年も練習すると内受容とその情動処理、もしくは自己認識が変化してくることを示唆している。
~中略~
したがって、自律訓練法は大脳皮質活動を抑制するのではなく、内臓感覚や情動に関連する皮質機能を活性化する技法であることがわかる。
(岡 孝和,小山 央:自律訓練法の心理生理的効果と心身症に対する奏功機序.心身医学 vol.52,no.1,25-31,2012)
島皮質は、マインドフルネス瞑想でも活性化することが知られている脳の部位です。
脳波が覚醒状態からリラックス状態に変化していても、ただ活動が抑制されて眠りの状態になっているわけではなく感情や自己認識に関わる部位が活性化されているということは、自立訓練法が心の回復にも影響を与える根拠になりえます。
心理への影響
自律訓練法は不安-緊張感、抑うつ気分、怒りの感情を低下させる。
また、定期的な自律訓練法の練習は自己受容や自己効力感を高め、自己認知を否定的なものから肯定的なものへ変化させる。
自立訓練法は疲労感を軽減する。
(岡 孝和,小山 央:自律訓練法の心理生理的効果と心身症に対する奏功機序.心身医学 vol.52,no.1,25-31,2012)
上記の報告だけだとなんだかとっても良さそうですが、ちょっとだけ注意が必要です。
自律訓練法中、かえって不安感が増強する者が一定の割合で存在することに注意が必要である。
(岡 孝和,小山 央:自律訓練法の心理生理的効果と心身症に対する奏功機序.心身医学 vol.52,no.1,25-31,2012)
身体を感じるということは、不安、緊張などで起きる身体の反応にも敏感になるということです。
もし、今まで身体の反応に鈍感になる(あるいは無視する)ことで、日常生活をなんとか送っていたとしたら・・・。
身体を感じ始めることで、不安や緊張も感じやすくなってしまう可能性があります。
そんなときは無理せず、まずは、ホッとして安心できることから始めましょう。
あなたはどんなときにホッとして安心できるの?
カフェでお茶をしているとき?
アロマセラピーで好きな香りに包まれているとき?
森に包まれているとき?
海でも、音楽でも、なんでも良いです。
あなたがしっかりとホッとして安らぐことが大切。
それが、癒しの第一歩です。
自律訓練法の治癒メカニズム
自律訓練法では、意識的にリラックスしたときの身体の状態を作り出すことで、脳が本来持っているバランス回復機能が働きはじめ、身体が回復し、そして心も回復していきます。
まずは、身体の回復。↓
自立訓練法の作用は、生体を
①緊張から弛緩へ
②興奮から鎮静へ
③交感神経優位状態から、副交感神経優位状態へ
④エネルギー消費状態からエネルギー蓄積状態へ
⑤反恒常性状態から向恒常性状態へ
導くとされてきた。
(岡 孝和,小山 央:自律訓練法の心理生理的効果と心身症に対する奏功機序.心身医学 vol.52,no.1,25-31,2012)
自律訓練法は自律神経を安定させ、エネルギー蓄積状態によって疲労が回復するんですね。
そして、心の回復へ。
ここからは、こちらの本からの引用を紹介します。
臨床家のための自律訓練法実践マニュアル 効果をあげるための正しい使い方 [ 中島 節夫 ] 価格:2,970円 |
①自己統制力を高める
自律訓練法は、心身機能の安定化を促す方法である。
疲労からの回復や過敏状態の改善は、不安定になりがちな感情の統制力を高めることにつながり、感情状態を統制できるという自信を生み出すことになる。
また、自己統制力が高まることは、周囲の状態に冷静・適切に対応していく能力を高めることでもある。
身体と心は連続してつながっています。
身体の安定は感情の安定。
それは、癒しの第一ステップである【生物の癒し】です。
②作業効率の向上、内省力の向上
疲労感がなく、身体・精神的な苦痛がないことは、作業や勉強に集中して取り組むことができる条件となり(作業効率の向上)、
感情の安定度が増すことは、論理的思考や現実的な思考と言った知的活動が有意になる条件となり、自らの内面の感情状態を冷静・客観的に観察する能力を高める(内省力の向上)ことへとつながっていくのである。
これは、カール・ロジャースの以下の言葉とも一致します。
自己にとってどんな脅威もない条件下では、防御性から離れ、生命体が自らをよりよく実現していこうとする潜在的な力に従う。(カール・ロジャース)
『生命体が自らをよりよく実現していこうとする潜在的な力』
・・・この力は、「心の自然治癒力」ともいえる力であり、私は「幸せになる力」と呼んでいます。
③自己効力感を高める
適切に対処できないという感覚が、不安感・緊張感・抑うつ感・無気力をもたらすことになる。
このような対処法の無力化という事態から、いかに速やかに対処可能感が持てるようになるかが、無力感が持続するか否かの重要な分岐点となる。
自立訓練法はクライエントが練習を継続することによって自ら心身の状態を維持・向上する方法である。またこの方法に習熟することで、困惑する事態を解決する能力を持っているという自信をもたらしていく方法である。
これは、自分が「幸せになる力」を持っていると感じられる状態。
自立訓練法は、癒しの第2ステップにもつながっているのですね。
以上、自律訓練法のエビデンスをまとめてみました。
自律訓練法を体験したい方は、赤坂溜池クリニックでお待ちしています。
赤坂溜池クリニック TEL:03-5572-7821
お電話にてご予約ください。
※当日キャンセルの場合は、キャンセル料として料金の半額をいただきます。
プロフィール
- 薬剤師/公認心理師/産業カウンセラー/プロセスワークプラクティショナー/森林インストラクター/森林セルフケアコーディネーター/メディカルハーブプラクティショナー/ドルフィンスターテンプル認定ヒーラー/日本森林療法協会元理事
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