無意識を統合する~深層心理学のススメ
現代の私たちは「思考」を使うことが多く「感情」を感じられなくなっている場合がありますが、自分の「感情」と仲良くなることが心の癒しの第一歩になることがあります。
なぜ「感情」と仲良くなることが心の癒しになるのでしょうか。
私たちの心の内部には意識できない膨大な情報が存在し、これを無意識と呼びます。
図は⇒wikipedia『無意識』より
特に「わたし」という自己概念に収まりの悪い心の側面(多くは怒り、嫉妬などの否定的感情)は顕在意識から切り離され、表に出ないように無意識の中に隠されていくことがあります。
実は、このような無意識は存在して当たり前なのです。
いちいち怒りや嫉妬や悲しみや寂しさを顕在意識で感じていたら日常生活が進まなくなってしまうので、私たちは自分を守るために不必要な「感情」を感じないように暮らしています。
例えば、本当は怒っているのに押し殺したり、褒められているのに「しらじらしいウソをついている」と嬉しさを押し殺したり・・・。
怒りや嬉しい感情をそのまま感じることは、人間にとって意外と難しいことなのです。なぜなら「怒りを露わにする人間は最低だ。」「自分は褒められるような人間じゃない。」など、多くの信念が邪魔しているからです。
「そんな信念、外してしまえ!!」というのは簡単ですが、これらの信念には私たちを守る大切な役割があります。
「怒ってしまったら周囲とうまくやっていけなくなる。」「ダメな奴と思っていた方が失敗したときのダメージが少ない。」など、信念は自分を守る防御システムとして働いています。
心理学ではこのような心の活動を防衛機制と呼びます。このシステムのおかげで、私たちは厄介な刺激にさらされ続ける日常生活を平常心で過ごすことができるのです。
ところが必要以上に無意識が多くなってしまうと、いろいろ困ったことが起きてしまいます。
「わたし」から切り離された「感情」は消え去ることなく無意識の中で注目される機会をうかがっていて、いわば背後から「わたし」を追い回す影になることがあります。
ユングはこの無意識を「シャドー」と呼びました。
「シャドー」を強く抑圧し続けていると、身体や心の病気として現れる場合もあります。これらの無意識の活動を研究したのがフロイト、ユングなどの深層心理学です。
インテグラル理論のケン・ウィルバーも「シャドー」について以下のように述べています。
「シャドー」は私たちが日常生活の中で拒絶・隠ぺいしている視たくない性格や感情などで、無意識化され病理的な症状を起こすことがある。
こうした無意識の領域を積極的に探求してそこに隠ぺいされているものを健全な形で解放・統合することは、私たちが真に包括的な治癒と成熟を実現していくためには必須の活動である。
「インテグラル理論入門Ⅰウィルバーの意識論(春秋社)」より
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「シャドー」を他人に映し出したのが、「投影」
「シャドー」の話には、さらに続きがあります。
↓
けれども、自分の「影」と向き合う作業は容易ではありません。
そのため、多くの場合、「私」はしゃくに障る「他者」のふるまいを通して自分自身の「影」と出会うことになります。
言い換えると、「私」は、自分のものとして認められない心の動きを「他者」に押し付ける傾向を持っているのです。この心的規制は「投影」と呼ばれています。
「インテグラル理論入門Ⅱーウィルバーの世界論(春秋社)」より
心理学用語としても知られている、「投影」(⇒wikipedia「投影」)。
なかなか耳が痛い言葉です。
「シャドー」を健全な形で解放、統合する深層心理学セラピー
「シャドー」は、生ききっていない自分、自分だと認めていない自分だと言えます。
それは、怒りや嫉妬などのネガティブな感情を感じる自分かもしれないし、
歌やダンスでなどでポジティブな感情を感じる自分かもしれないし、
やりたくない仕事を「やりたくない」と感じる自分かもしれません。
これらの無意識の領域を積極的に探求し、そこに隠ぺいされている感情を健全な形で解放・統合するのが深層心理学を応用したセラピーです。
私もいろいろ体験しましたが、リピート体験したものは、
・オリン/サネヤ・ロウマンの誘導瞑想(ただの気持ち良い瞑想ではなく、感情や信念について扱います。)
です。
これらのセラピーでは、「人からよく見られたい」、「私って有能だわ」、「私が世界を回したい」など、ずっと隠ぺいしていたかった感情も出てきました。
それでも、ちょっとずつ、本当にちょっとずつ、あれも自分、これも自分、と、自分だと感じる範囲が増えていくと、この世界はとっても愛しくて、とってもやさしい世界だと気づいたのでした。
それは、『多面性を持った自分』だったように思います。
ユングも「シャドー」と真摯に向き合うことを勧め、この心理的過程を「個性化の過程」と呼んでいます。
ユングに言わせると、人生の道のりは「私」と「影」との葛藤に苦悩しつつ、心の全体性の自覚に向けて歩んでいく「個性化の過程」なのです。
「インテグラル理論入門Ⅱーウィルバーの世界論(春秋社)」より
体験に開かれよう。
産業カウンセラーでもおなじみ、カウンセリングの神様、カール・ロジャースは体験と自己概念(「わたし」だと思っていること)が一致していることを「体験に開かれている。A growing openness to experience」と表現しています。
私たちが幸せを感じられない、困ったなぁと感じるとき(不適応状態)は、「わたし」が重要な感覚的、知覚的、内臓的、直感的体験に気づくことを否認し、体験が自己概念の中に統合されない時に生じるとしました。
「体験に開かれる。」とは、「わたし」のアイデンディティと一致しない体験(主にネガティブな「感情」)を取り入れ、統合していく過程であり、カウンセリングではこの過程を大切にします。
厚生労働省のホームページにも心の健康の定義のひとつに「自分の感情に気づいて表現できること(情緒的健康)」が一番目に挙げられています。
感情と仲良くなることは、心の癒しの第一歩なのです。
プロフィール
- 薬剤師/公認心理師/産業カウンセラー/プロセスワークプラクティショナー/森林インストラクター/森林セルフケアコーディネーター/メディカルハーブプラクティショナー/ドルフィンスターテンプル認定ヒーラー/日本森林療法協会元理事
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