癒しの第1ステップ~ホッとする、安らぐ【生物の癒し】
「癒し」とは
今や、生活のあらゆる場面で使われる言葉、「癒し」。
まず、「癒し」とはなんでしょうか。
とても身近な言葉ではありますが、現在のように広く使われるようになった歴史は意外と浅く、広辞苑などの辞書には「癒し」という名詞ではなく「癒す」という動詞で載っています。
「癒す」・・・病気や傷を治す。飢えや心の悩みなどを解消する。地蔵十輪経(元慶点)「疾を癒すこと良医の如し。」「渇を癒す」「時が悲しみを癒す」(広辞苑)
『地蔵十輪経』は、地蔵菩薩の教えを説いた仏教経典です。
仏教では「癒す」という言葉は精神的・肉体的な病苦からの解放、魂や心の救済を意味する言葉として使われていたようです。
1990年代後半から、現代におけるストレスからの解放・心の安らぎを表現する言葉として「癒し」が使われるようになり、1999年には流行語大賞のトップテンに入賞しました。この時の受賞者は、癒しをテーマに熊野で地方博覧会を行った、和歌山県知事でした。
こちらに、2000年代に「癒し系」と呼ばれていたものを挙げてみます。
●癒し系アイドル
乙葉・井川 遥・優香・長谷川京子・仲間由紀恵
●癒し系キャラクター
たれぱんだ・お茶犬・しばわんこ
●癒し系アート
相田みつを
●癒し系音楽
クラシック・オルゴール・民族音楽・せせらぎ・鳥の声
●癒し系グッズ
竹炭・観葉植物・レインボーメーカー
「たれぱんだ」は、1998年に文房具メーカーのサンエックスから発売されたキャラクター文具が人気となったものです。
「お茶犬」は、伊藤園の「お~いお茶」のおまけストラップでおなじみですね。セガトイズとホリプロが、2002年に「癒し」をテーマとして開発したキャラクターだそうです。
「しばわんこ」は、2006年、NHK総合テレビの『ゆるやかナビゲーション』という「癒し」をテーマにした情報番組で放送されている短編アニメの主人公で、「和」の心を愛する柴犬という設定になっていました。
これらの「癒し系」に共通するのは、なんとなく心が和む、安心感があるという感覚です。ある調査では、キャラクター商品に求める効果のトップ3は、安らげる、やさしくなれる、気分をリフレッシュできる、とのことでした。
これらの「癒し系」とよばれるものを眺めてみると、現代の自分をを見失いがちな生活の中で、
「心の落ち着きや安らぎをもたらし、ほっと一息つける時間・空間」
に、私たちは「癒し」を感じるようです。
森林療法の視点からの「癒し」
では、改めて「癒し」とは一体何でしょうか。
まずは「森の癒し・森林療法」の視点から考察してみましょう。
元森林総合研究所の宮崎良文先生は「森林浴はなぜ体に良いか」という著書の中で、以下のように述べています。
快適性とは人と環境間のリズムの同調である。
身近な自然と接することにより、自然との間に同調関係が生じ、高すぎる緊張状態が緩和され、本来のヒトとしての姿に近づき、リラックス状態がもたらされる。
また、マキ・フジタヒーリングスクール校長の藤田真規先生は以下のように述べています。
究極の癒しとは、自然と一体となること、自分が大自然の一部だと分かること。
[BOOK]癒しを仕事にする BABジャパン 1,296円楽天より
人間は、500万年にわたる人類の歴史の中で99.99%以上を自然環境の中で生きてきました。
現在、人工化された環境の中で、私たちの体は常に緊張状態にあります。太古の記憶の中にある自然界という環境との間に調和を感じ、安らいだり、ほっとする感覚が、「森の癒し」なのでしょう。
それは、生物としての基本の「癒し」です。
心理学の視点からの「癒し」
次に、心理学の視点から考察してみましょう。
マズローの欲求段階説
アメリカの心理学者アブラハム・マズローは、人間の基本的欲求を5段階にまとめました。
【マズローの欲求5段階説】
①生理的欲求
②安全・安定の欲求
③所属と愛の欲求(社会的欲求)
④承認の欲求(尊厳欲求)
⑤自己実現の欲求
①生理的欲求、②安全・安定の欲求は生物としての本質的な欲求であり、【生物の癒し】の基本です。
③所属と愛の欲求(社会的欲求)、④承認の欲求(尊厳欲求)は、社会性動物としての欲求です。
人間は、感情と思考を駆使して複雑で秩序ある集団社会を形成しています。③所属と愛の欲求(社会的欲求)、④承認の欲求(尊厳欲求)が満たされるとき、私たちは今いる環境に調和を感じ、ホッとして安心します。
これは、社会的動物としての【生物の癒し】です。
ここまでの①~④の欲求は欠乏欲求とも呼ばれます。この欠乏欲求が満たされる感覚が、「癒し」の第1ステップです。
ロジャースのカウンセラー三条件
産業カウンセラーでもおなじみの、カウンセリングの神様、カール・ロジャースは述べています。↓
自己にとってどんな脅威もない条件下では、防御性から離れ、生命体が自らをよりよく実現していこうとする潜在的な力に従う。
『自己にとってどんな脅威もない条件下』・・・それは、生物として今いる空間にホッとして安心できるとき・・・。
ロジャースが提唱したカウンセラーの姿勢としての三条件は、この【生物の癒し】を提供できる空間であるとも言えます。
カール・ロジャースのカウンセラーの中核三条件
1.自己一致、純粋性
自分自身の体験を意識化し、クライエントに対しても偽りのない態度で接すること。
2.無条件の肯定的関心
クライエントの存在そのもの、体験や表現に対して、条件付きでない温かな関心を示し、受け止めること。
3.共感的理解
クライエントが表現していることをあたかも自分自身のものであるかのように感じ取り、理解すること。
『産業カウンセラー養成講座テキスト』より
以上をまとめると、「癒し」とは、
『自分の存在と、周囲の環境・空間とが調和する感覚』
と考えられます。
インテグラル理論の視点からの「癒し」の第1ステップ
では、ホッとする、安らぐ【生物の癒し】が「癒し」の最終形態なのでしょうか。
どうやら、私たち人類は、その先の「癒し」を求めるようなのです。
インテグラル理論の提唱者、ケン・ウィルバーによれば、宇宙は複雑化する方向へと進化しているそうです。
地球上では『物質界』→『生物界』→『心界』と、より複雑化した世界が次々と誕生してきました。
ビッグバンが起きて、
↓
宇宙、すなわち『物質界』が誕生。
次に誕生したDNAを持つ生命体は、
『物質界』と統合して、より複雑化した『生物界』へと進化しました。
↓
さらに複雑化した神経系により、
↓
『心界(感情や思考)』を持つ動物や人間が誕生しました。
宇宙の進化はここで終わりではありません。
宇宙は今も、より複雑化する方向に進化を続けていて、『心界』と『生物界』は統合に向かっています。
しかし、地球上に誕生して日が浅い『心界』は、まだ『生物界』と統合できるほど複雑化できていません。
16世紀以降のルネサンス、自然科学の発達は『心界』を複雑化する初期段階でした。
自然科学は『心界』を使って『生物界』を考察する、つまり『心界』と『生物界』を一時的に分離(差異化)する過程です。
あれ?
新たな統合に向かうのに、分離したらダメなんじゃないの?
いえいえ、一度きちんと分離をすることで、しっかり複雑化することができるのです。『生物界』と同じくらい複雑化することで、『心界』は真の意味で『生物界』との新たな統合が可能になります。
↓
ところが現代では、『生物界』と『心界』との分離が行き過ぎてしまい、西洋近代科学は様々な問題を抱えてしまいました。
↓
ホッとする、安らぐ感覚は、分離しすぎてしまった『心界』と『生物界』が再び一体化する感覚。
自然界の一部であるワタシが、生物としての存在に調和を感じたときの感覚、それが【生物の癒し】です。
森林療法、植物療法、整体などのボディワークで癒されるのは、『生物界』と『心界』とのつながりをもう一度取り戻す営みだからなんですね。
これが、癒しの第1ステップ。
【生物の癒し】で、しっかりホッとして安らいだら、第2ステップへの扉は自然と開かれていきます。
まずは、第1ステップでしっかり安らぐ
まずは、難しいことを考えずにホッとして、安らぎましょう。
そして、私たちが自然界の一部であり、『生物界』と『心界』の両方を持つことを全力で感じきりましょう。
そのためのセラピーは、星の数ほどあります。
お好きな入口からお入りください。
森林療法
植物療法
ボディワーク
グラウンディング
感情の癒し
プロフィール
- 薬剤師/公認心理師/産業カウンセラー/プロセスワークプラクティショナー/森林インストラクター/森林セルフケアコーディネーター/メディカルハーブプラクティショナー/ドルフィンスターテンプル認定ヒーラー/日本森林療法協会元理事
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