森林療法のエビデンス「味覚刺激」
森林療法/セルフケアでは味覚を使った体験はほとんど行いませんが、「食」を通して森林の味覚は楽しまれています。
味覚は心と身体にどのような効果をもたらすのか、今回は、味覚と自律神経活動についての研究と、「森林医学 朝倉出版2006」からの抜粋を紹介します。
味覚・うま味と自律神経活動
〔対象〕22~32歳の女性
〔方法〕「酸味:クエン酸」「塩味:NaCl」「うま味:グルタミン酸ナトリウム」「甘み:ショ糖」「苦味:キニーネ」の溶液3mlを1分間口に含んだ後吐き出させ、唾液分泌量とポータブル心電計による心拍変動を測定した。
〔結果〕すべての刺激により唾液分泌量は増加したが、苦味では他の刺激よりも有意に弱かった。心拍変動では、うま味と低濃度の塩味刺激により副交感神経の活動亢進がみられ、苦味と高濃度の塩味刺激により交感神経活動の亢進がみられた。
〔考察〕キニーネは嫌いな味と答えた者がほとんどであり、拒否情動と、塩辛さの不快情動が結果に現れたと考えられる。動物は毒物が呈する味として苦味を本能的に忌避することから、自律神経活動の変化はこの生理的反応を反映した可能性がある。
うま味刺激は唾液分泌効果を介して摂食機能を高めるだけでなく、自律神経の副交感神経を高め、消化機能を高めると同時に情動的にも落ち着いた状態を生じる可能性が示唆された。
(杉本.日本味と匂学会誌;17(2),109-115;2010)
【筆者補足】
唾液分泌などの消化管活動は、副交感神経活動時に活発になります。「おいしい」という感覚は、からだ全体をリラックスさせてくれるようですね。
逆に苦味は、交感神経の活動によりシャキッとさせるようです。春先の山菜など苦味のある食べ物は苦味健胃薬として昔から知られています。
また、自律神経活動として森林セルフケア講座でも紹介している心拍のゆらぎを測定していることも興味深く感じました。
スギ樽貯蔵ウイスキーの味覚刺激
〔方法〕スギ樽貯蔵したウイスキーのブレンド(アルコール濃度25%)を作成し、閉眼状態にて通常のスギなしモルトウイスキー、水、25%エタノールとともに順番をランダムにして舌の上に0.1ml置いた。
〔結果〕スギなし、スギ樽とも主観評価では差異なく、多くの被験者は同じウイスキーを舌の上に置かれたと感じていた。
しかし生理応答では、スギなしウイスキーでは一過性の収縮期血圧の上昇を認め、味覚刺激前の値にもどるのに50秒を要したのに対し、スギ樽ウイスキーでは有意な血圧上昇は認めず20秒で前値に戻った。
スギなしウイスキーで一過性の収縮期血圧の上昇を認め、スギ樽ウイスキーでは、有意な血圧上昇は認めなかった。
脳活動は、スギなしウイスキーは刺激後90秒間つねに活発な活動が継続していたが、スギ樽ウイスキーでは刺激直後に一過性の脳活動が観察されたのみで、その後は有意な活動は観察されなかった。
〔考察〕主観的には差異がなかったが、生理的には明らかな違いがあることがわかった。
(森川ほか日本生理人類学会大会研究発表要旨集,45:76-77 2001)
【筆者補足】味覚は、味覚受容体に化学物質が結合して検出されます。自覚していなくても、存在する化学物質によって身体は反応するのですね。知らないところで様々な反応をしているカラダって奥が深いです。
プロフィール
- 薬剤師/公認心理師/産業カウンセラー/プロセスワークプラクティショナー/森林インストラクター/森林セルフケアコーディネーター/メディカルハーブプラクティショナー/ドルフィンスターテンプル認定ヒーラー/日本森林療法協会元理事
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