あなたは「イチョウ」だったのね。
昔働いていた会社のビルの前にイチョウ並木がありました。これは、私がそのイチョウに出会ったときの物語です。
会社の前の並木についていた”ミニ葉巻”
大学を卒業して4年目の頃、私は自然観察の面白さに心惹かれ、毎週末のようにどこかの森林に出かけていました。
友人たちと登山やキャンプに行くこともあれば、がっつり自然観察会に参加することもあれば、自然観察の指導者養成の講座に参加したりもしていました。
会社に入って5年目の春、ふと出勤前に会社のビルの前の木に新芽が出ていることに気がつきました。
自然観察会でよくやるように、私はたくさんの新芽から一つを選んでプチッといただき、丁寧にほどいていきました。5ミリほどの、葉巻のようにくるりと巻いた新芽をほどくと、私の手の中には扇形をした小さな葉っぱが現れました。
「えっっ、イチョウじゃん。」
見上げると、冬の間に選定されて枝を短くした木に、小さな黄緑色のミニ葉巻がたくさんついていました。
「そうか、これはイチョウだったのか。」
私はこのとき初めて、自分が毎日通っているビルの前にイチョウ並木があるということを認識したのでした。
あなたは「イチョウ」なのね。
当時の私は、バブルの余韻が色濃く残る会社でモーレツ社員(←死語?)で働いていました。
出張もほどほどにあり、資料準備は夜半にまでかかったり、慣れない接待でお酒の席に出席することもありました。やさしい社員の方々に助けられながら、泣いたり笑ったり、なんとか持ちこたえて仕事をしていました。
私がそんな日々を繰り返していた間にも、このイチョウたちは春には新芽を出し、秋にはまっ黄っきに色づいて、私が気づこうが気づくまいが、たくさんの落ち葉を落としていたのでしょう。
おそらく、私の視界には黄色い落ち葉は入っていたろうと思います。視床に情報は入っても、大脳新皮質に連絡が行っていない状態です。(⇒マインドのしくみ①)
だから、私がこれらの木々を「イチョウである」と認識したのはこの時が初めてだったのです。
「あなたは『イチョウ』なのね。」
私の中に、目の前のイチョウがしっかりと入ってきた瞬間でした。
そして、新芽ファンクラブへ
多分、この体験は私の自然観察のひとつの原点です。
遠くの自然にでかけて、植物の名前を教えてもらうことを楽しんでいた私が、身近な自然に自分で気づいた瞬間でした。
だれかに教えられたわけではなく、自分で気づいた瞬間の感動。
ここから私は「街路樹ウォッチング」という本を買い、宇都宮のトチノキ並木、お茶の水駅近くのトウカエデ並木などを発見してほくそ笑むという趣味を持つことになります。そして、新芽ファンクラブへと・・・。
週末に出かけた遠くの森林で癒されるという体験は、通勤経路での街路樹でも癒されるという体験に消化されることで、会社員生活に彩りを添えてくれるようになりました。
☆
ルドルフ・シュタイナー「魂のこよみ」からの一節。
世界は私の魂の関わりがなければ、ただそれだけでは冷たい空虚な働きにすぎない。
この言葉から思い出した、私とイチョウの物語でした。
プロフィール
- 薬剤師/公認心理師/産業カウンセラー/プロセスワークプラクティショナー/森林インストラクター/森林セルフケアコーディネーター/メディカルハーブプラクティショナー/ドルフィンスターテンプル認定ヒーラー/日本森林療法協会元理事
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