ジオン・ズム・ダイクンのニュータイプ論からトランスパーソナルを考える。
ご縁があって、機動戦士ガンダムユニコーンというアニメを視聴しました。
1979年からのガンダムシリーズを通して語られる、ジオン・ズム・ダイクンのニュータイプ論。⇒wikipedia「ニュータイプ」
架空アニメ中の概念であり、定義も曖昧ですが、
お互いに理解し合い、それによって戦争や争いから解放される新しい人類の姿
という概念は、トランスパーソナルととても似ているなぁと、思います。
ガンダム制作陣はトランスパーソナル心理学を意識してはいないでしょうが、私たちの集合意識の中に、自己超越、トランスパーソナルへ欲求があるのは確かなようです。⇒マズローの自己実現理論
だからこそ、架空の物語で語られる「人間同士が分かり合える世界」に私たちは魅かれるのでしょう。
しかし、このニュータイプ論では「パーソナル」の大切さ、そして「シャドーへの取り組み」の大切さは説かれていません。
ケン・ウィルバーのインテグラル理論によると、トランスパーソナルは、パーソナルを超えていくもの。プレパーソナルから突然変異で生まれるものではないのです。
ウィルバーは「トランスパーソナル(超個)」は「パーソナル(個)」をある程度作った人がさらにその先(上)のスピリチュアルとか悟りの境地へ向かうためのものはずが、パーソナルにも取り組んでいない「プレパーソナル(前個)」段階の人がパーソナルを作るプロセスをワープしてくる場所になっていることに気づき、トランスパーソナルの前に、「統合された個」をつくるための「インテグラル(統合)理論」の必要性を痛感。(⇒「インテグラル(統合)理論・実践編~ボディ編、スピリット編」降矢先生報告より抜粋)
「シャドー」への取り組みはパーソナル領域へのプロセス
アニメの中で主人公バナージ・リンクスは何度も叫びます。
「人の命は大切だ」
と。
しかし、憎しみ、嫉妬、虚栄心などを心に抱える人々にはなかなか届かない。もどかしい場面が続きます。
が、届かなくて当然なのです。
なぜなら、憎しみ、嫉妬、虚栄心は彼ら内部の「シャドー」だから。他者が、「そんなものは手放せ」と言ったところで、簡単に手放せるものではないのです。
「嫌われる勇気」で有名になった心理学者のアドラーは、「怒りは二次感情である。」と言っています。その根っこには、落胆、心配、悲しみ、寂しさ、傷つきなどの一次感情があるそうです。
・憎しみの奥にある、肉親を失った傷つき、悲しさ。
・自分の安全が保たれなかった不安感。
・大切に扱われなかった寂しさ。
これらの感情を大切なものとして、健全な形で解放、統合していくのが「シャドーへの取り組み」です。
こうして「シャドー」を自分のものとして統合していくことを、ユングは「個性化」と呼んでいます。それは、自己の内面を豊かにし、自己受容、パーソナルへと導くプロセス。
自己の内面が豊かになってはじめて、世界の複雑性、多様性、相互関係を理解できるようになるのです。そこをすっとばしたニュータイプはありえないかもしれません。
トランスパーソナルへの欲求も自覚しつつ、パーソナルへ取り組む
ジオン・ズム・ダイクンの息子、キャスバル・レム・ダイクン(のちのシャア・アズナブル)は、生い立ちが複雑だっただけに、多くの「シャドー」を抱えて生きていたと想像できます。
架空の物語にもかかわらず、そんな背景を思うと彼のニュータイプ能力が中途半端だったことに、妙に納得できてしまいます。(それがまた、長年慕われる魅力的な人物像になっているのでしょうけども。)
もし彼が「シャドー」に取り組み、「パーソナル」へのプロセスを進んでいたら。。。。
アニメの物語が根本から変わってしまいますね。映画『逆襲のシャア』はなかったでしょう、きっと。
同じように複雑な生い立ちだったであろう、ミネバ・ラオ・ザビが、ある程度パーソナルを確立した人物像として描かれているのには、視聴者としてホッとした気持ちになりました。
まだまだ人類はプレパーソナルからパーソナルへと至る段階にいるんだと思います。
現在、世界の人々の大部分が必要としているのは、まだ合理性を超越する道ではなく、合理性に至る道のようである。(ケン・ウィルバー『進化の構造』より)
トランスパーソナルへの欲求があることも自覚しつつ、地道に、自己の内面を豊かする取り組みをしていきたいと思っています。
ニュータイプ能力は、主人公の特権ではない。
ユニコーンガンダムがなくても、他者とつながることができる。
そんな世界が未来にある「可能性」を信じつつ。。。
ニュータイプにならずとも、私たちはひとりひとりが感じる心を持ち、環境に応じて変化できる力を持ち合わせているのです。
人間の業を否定して、ニュータイプの地平に救いを求めても何も始まりません。
不便でも、もどかしくても血の中から紡ぎだされた善意をつなげていくしかない。
必要なものはこの体にすべて備わっているはずなのですから。
~中略~
私たちの中に眠る、可能性のいう名の神を信じて。
(機動戦士ガンダムユニコーン ミネバ・ラオ・ザビの演説より)
プロフィール

- 森と魂のセラピスト
- 薬剤師/公認心理師/産業カウンセラー/プロセスワークプラクティショナー/森林インストラクター/森林セルフケアコーディネーター/メディカルハーブプラクティショナー/ドルフィンスターテンプル認定ヒーラー/日本森林療法協会元理事
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