森林療法に関わるマンパワー~森林インストラクターの視点から

2006年3月25日発売『アロマトピア』に寄稿した記事からの抜粋です。

森林療法に関わるマンパワー<森林インストラクターの視点>

(有)ホリスティックヘルス情報室 森林養生プログラムスタッフ
薬剤師・森林インストラクター
飯田みゆき

はじめに

森林療法には、一般保養客の健康増進、高齢者のリハビリテーション、障害者療育、幼児保育など幅広い領域があり、これらを全部担うことのできる人材の養成は困難です。

その中で森林インストラクターは、森林をよく知り、森の楽しさを教えることができることから、森林療法を担う人材の一員として期待されていますが、森林浴から一歩進んだ形の森林療法において、医療や福祉の知識の少ない森林インストラクターがどのように関わることができるのかを心配する声もあります。

赤坂溜池クリニック・ホリスティックヘルス情報室で実施している「森林養生プログラム」は、森林保養地で、自然治癒力を増強する自然療法・代替療法を体験しながら、ホリスティックな「養生」を学ぶプログラムで、スタッフは、医師・看護師・整体師・鍼灸師・アロマセラピストなど、医療関係者・代替療法のセラピストから構成されています。薬剤師・ハーバルプラクティショナーとしてスタッフに参加して森林療法ウォーキングを何回か実施した経験から、森林療法のマンパワーとしての森林インストラクターの可能性を探ってみます。

森林インストラクターとは

森林インストラクターは、(社)全国森林レクリェーション協会が認定する「森の案内人」の資格であり、「森林を利用する一般の者に対して、森林や林業に関する適切な知識を与え、森林の案内や森林内での野外活動の指導を行う者」です。

自然を案内する資格には、他にもNPO法人 自然体験活動推進協議会(CONE)の自然体験活動リーダー、日本自然保護協会(NACS-J)の自然観察指導員など、いくつかの資格があり、このような自然の楽しさ・大切さを伝えている人々のことをインタープリターと呼んでいます。

インタープリターは直訳すると「翻訳する人」ですが、自然の発するメッセージを翻訳してわかりやすく伝える人という意味で使われており、森林インストラクターもその一つと位置づけられます。

インタープリターの活動目的は、環境教育と呼ばれる地球環境を守る人材の育成です。自然と人間との仲介人としての存在は、森林療法の担い手になる可能性を十分に持っていると考えます。

森林インストラクターの得意分野

では、森林療法を担う一員として、森林インストラクターはどのような場面で力を発揮することができるでしょうか。

①安全管理・引率能力

森林は常に安心・安全な場所ではありえません。スズメバチなど危害を加える動物、かぶれる植物、雷・嵐など天候の心配、道に迷う可能性もあります。森林療法では、自然にあまり親しんでいない人々も参加することが予測されるため、より高い安全管理能力が求められます。

また、医療関係者は通常1:1でケアやセラピーを行っているため、複数の人に声をかけて引率する場合には、森林インストラクターの技術が生かされます。

②自然を語ることができる

森は、そこにいるだけで十分癒しの効果がありますが、そばで森の成り立ちや仕組みを知り、森が語りかけてくることを通訳してくれる人がいたとしたら、森からのメッセージは参加者にさらなるやすらぎと感動を与えてくれることでしょう。インタープリターとしての一番大きな役割と考えます。

③自然を客観視できる

「森が好きですか?」と聞かれたとき、絵本や映画の中の観念的な森をイメージし、「好きです。」と答える人は多いと思います。しかし森は、心地よい音楽CDでもなければ、アロマテラピーサロンでもありません。そこには昆虫・クモ・カビなどの生命がそれぞれ役割を持って存在し、生態系が成り立っています。

「森の癒し」というと、森を神秘化し、人間の都合よく解釈しがちになりますが、客観的に森をとらえ、現実の森を感じることをサポートできるのは、森林インストラクターの役割ではないでしょうか。

森林インストラクターの課題

森林療法は森の中で心身の健康増進をはかるものであり、森林インストラクターにもある程度の健康に関する知識は必要になってくるでしょう。しかし、医療・福祉関係者と連携しながら活動する場合に求められるものは、参加者が今どんな気持ちで何を感じているのかという様子を観察する姿勢や、参加者の心のゆらぎを受け止めるカウンセリングマインドではないでしょうか。

私は薬局で心療内科からの処方箋調剤や一般漢方相談を行う際に、ストレスによる心や体の不調を訴えるお客様と接する機会があります。彼らは非常に不安で心細い気持ちを持ち、思うようにならない自分の体に対して、苛立ちを感じている人も少なくありません。こうした人々が森林療法に参加した場合を考えると、森林インストラクターが森を案内する場合に、今一度留意した方が良いと感じていることがあります。

①語りすぎる傾向

自然観察を専門としている場合、参加者になるべく多くのことを知ってもらおうというサービス精神から、語りすぎてしまう場合があります。森林療法の参加者は、自然観察を目的としているのではありませんので、参加者自身の感性で森から受け取るものを大切にしたいところです。

②元気があふれすぎる傾向

野外活動を得意とする人は、明るく元気な人が多いと思います。ところが、自然の中に入れば必ず元気になるとの信念や、インストラクター自身の明るさの強調は、時として参加者の心細い気持ちを増長してしまう可能性があります。

明るくしたくても、どうしても気持ちが落ち込んでしまう人の気持ちを受け止める姿勢が求められます。

③シェアリングを求める傾向

自然体験ゲームの中には、何人かで一緒に自然を観察したり、一つのものを作り上げるプログラムがあります。環境教育ではシェアリング(わかちあい)をとても大切にしていますが、体調に不安を感じている人にとって、シェアリングは「気遣い」や「頑張り」を必要とすることがあります。

森林療法では、一人で森と対話することを優先させてあげたいと感じています。

以上のことをまとめますと、森林インストラクターの課題は意識の変革ではないでしょうか。「語る」より「聞く」立場、「教える」より「寄り添う」立場で参加者を森に案内する姿勢が必要と考えます。

最後に

森林療法は森林環境を総合的に利用するものであり、森林インストラクターはマンパワーとして十分な潜在能力を持っていると考えます。今後、今まで培ってきた能力を生かしつつ、森林療法は環境教育とは異なる新たな活動と認識し、より参加者に寄り添う形で活動を展開することで、森林インストラクターは、森林療法を担うチーム編成の一員になると期待しています。

参考図書

「日本型環境教育の提案」清里環境教育フォーラム実行委員会 編 小学館
「事例に学ぶ森林療法の進め方」上原 巌 編著 全国林業改良普及協会
「森林療法ハンドブック」降矢英成 編 東京堂出版
「きのきのブック」盛鶴延&きのきのリサーチ隊著 太田出版

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プロフィール

飯田 みゆき
飯田 みゆき森と魂のセラピスト
薬剤師・森林インストラクター・メディカルハーブプラクティショナー・ドルフィンスターテンプル認定ヒーラー・日本森林療法協会元理事