森林療法のエビデンス「慢性疼痛」

今回は、痛みに対する森林散策の効果を検討した研究を紹介します。

この研究は、明治国際大学鍼灸学部臨床鍼灸学講座、九州看護大学看護福祉学部鍼灸スポーツ学科、帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科の共同研究であり、痛みと常に向き合っている研究者からの報告である点、セルフケアとしての森林浴という視点をとても興味深く拝見しました。

☆注意事項☆

森林療法のエビデンス各ページでの研究紹介は、タイトルも含めて省略する過程で要約者の主観が入ります。引用する場合は必ず原著をお読みください。

 

線維筋痛症患者での臨床的意義

〔対象〕線維筋痛症患者15名

〔方法〕線維筋痛症患者を介入群(6名、43.0±12.1歳)とコントロール群(9名:平均41.7歳)の2群に分け、介入群は1度だけ森林浴に対する講義1時間と森林浴1時間を体験し、その後3ヶ月間は自分のペースに合わせて自宅で行う様に指示した。

〔結果〕介入群で森林浴講義と森林浴体験の前後を比較すると、講義の前後では痛みの強さ(VAS、簡易版マクギル)、精神的な変化(POMSの点数)、ストレス評価(唾液中アミラーゼと心拍数)に大きな変化は認められなかったが、森林浴の前後ではそれぞれ軽減あるいは改善する傾向が認められた。しかし、統計的な有意差はなかった。

介入群とコントロール群(9名、41.7±8.7歳)を3カ月後に比較すると、痛みの強さ(VAS)、QOL(JFIQ) ともに介入群の方がコントロール群に比べて改善する傾向にあった。(p<0.05)。なお、介入群で3ヶ月間に森林浴を実施した者は5名であり、その実施率は1.8±0.8回であった。

〔考察〕

1.慢性痛患者に対するセルフケアの重要性…一般的に急性痛では障害の程度に応じた痛みが中心であるが、慢性痛では情動的な要素が強くなることが知られている。慢性痛患者は天候の変化やストレスなど、日常の些細な変化から痛みが変化することが多いが、これらの変化に万能に対応できる薬物や治療法はなく、治療してもらうという受け身治療では解決できない。そのため、痛みへ対応する知識を患者自身に身につけてもらう能動的な治療が必要不可欠である。

2.慢性痛患者に対するセルフケアとしての森林浴の効果…今回の結果から、線維筋痛症患者など慢性疼痛患者に森林浴を取り入れることは臨床的に有意義である可能性が示唆された。詳細な理由は不明であるが、精神的スコアやストレス度合いが改善したこと、森林を歩くことが運動につながったことなどがその要因として考えられる。森林浴は手ごろに行えるためその後の実施率も高かった。実施方法やポイントが理解できれば、家庭で行えるセルフケアとして取り入れられる可能性は高く、詳しく検討していく必要があると思われた。

(伊藤ほか 慢性疼痛 32(1) 123-128,2013)

【筆者補足】

線維筋痛症(せんいきんつうしょう)は、全身に激しい痛みが生じる原因不明の病気で、治療法の確立が待たれています。

痛みは何らかの身体的損傷が原因であり、その原因を除去すれば改善するというイメージがあると思います。しかし、慢性痛は不安、恐れなどの情動と関係が深く、日常のストレスや思考パターンが強く影響するのだそうです。

また、森林浴の講義と体験を一度行った後は、自宅で自分のペースで実施するように指示するという研究方法も興味深いですね。患者自身が積極的に治療に参加する意識が痛みに対するセルフマネジメントの第一歩なのでしょう。患者さんと向き合っている鍼灸師の先生ならではの研究だと思いました。

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プロフィール

飯田 みゆき
飯田 みゆき森と魂のセラピスト
薬剤師/公認心理師/産業カウンセラー/プロセスワークプラクティショナー/森林インストラクター/森林セルフケアコーディネーター/メディカルハーブプラクティショナー/ドルフィンスターテンプル認定ヒーラー/日本森林療法協会元理事